クリニックの開業はいつが最適か
医療
12月の開業がお勧めです。
勤務医時代の給与と相殺可
-税務面から時期を考える-
経営
- 2015.10.02 -
開業時期と税金への影響
勤務医がクリニックを開業するには、いつが良いでしょうか。
時期には前勤務先への引継ぎや季節(耳鼻科なら花粉症のシーズン等)も関係するでしょう。
しかし、税金という観点からは、年末に近づくほど有利です。
理由は、勤務医時代の給与所得と開業経費(損失)とを相殺できるからです。
所得税の税金計算の仕組み
①所得の類型毎に計算方法が異なる
所得税では、所得の種類により税金計算方法が分けられています。
ここでは勤務医から個人クリニックを開業するケースで以下のような場合を想定します。
- ・勤務医時代の給与がある
- ・開業時に多額の経費が計上された
- ・その他大きな所得がない
- (例:賃貸不動産経営に係る所得、赤字)
基本的に異なる種類の所得は、各所得毎に計算されます。
そして、ある所得に損失が出ても、その他所得の利益と相殺できません。
しかし、事業で発生した損失(この場合、開業時の経費)は給与と相殺することが可能です。
これを損益通算といいます。
②所得税は所得の大きさに応じて税率が変化
所得税では税率が7段階に設定されています。
最低は5%、最高は45%となっています。
例えば、課税所得金額が900万超~1,800万円以下なら、税率:33%です。
所得が大きいほど、税金も多くなります。
③所得の相殺とは、どういうことか
例えば、開業年に以下の所得状況で相殺したとします。
- ・1月~退職月までの勤務医時代の給与所得:1,000万円
- ・開業に要した経費:900万円
単純説明すれば、課税所得は1,000万円-900万円=100万円となります。
100万円の税率は5%となるため、相殺前に比べ税金は安くなります。
ところで、勤務医時代には給与から所得税が源泉徴収されています。
そして、当該税金は1,000万円を想定されて徴収された税額です。
そのため、確定申告の精算で、当該徴収済税額は還付されることになります。
また、所得税還付だけでなく、来年の住民税も軽減されることになります。
他方、年を跨いで開業した場合、前年給与と開業経費の相殺はできません。
つまり、事業の赤字(開業経費)と給与とは同一年中に存在する必要があります。
相殺ではなく、開業費の制度を利用する
開業に要した経費は、次年度以降に繰越すこともできます。
この繰越された経費を開業費と呼びます。
開業費のメリットは、いつでもそれを費用化できることです。
例えば、上記例の開業費:900万円は今年でなく、来年以降の経費とできます。
そこで、ポイントとなるが所得税率です。
税率は5~45%の7段階あると述べました。
とすると、所得の低い年より高い年(=税率が高い年)に経費化した方が有利とも言えます。
そのため、開業年には敢えて給与と相殺しないという選択肢もあります。
例えば、クリニック経営が軌道に乗った後に、開業費を経費化するという具合です。
(最高税率:課税所得=4,000万円超の年に適用など)
他方、開業当初は資金不足に陥りやすいという特徴もあります。
そのため、いち早く税金還付でキャッシュフローを改善したいというニーズもあるでしょう。
その場合、給与との相殺の方が適します。
どちらを選択するかは、ドクターの意向や個別事情により判断されるでしょう。
その他開業時期で考慮すべきこと
税務以外でも、開業時期で重要なスケジュールを上げると以下となります。
(下記例はテナント開業を想定)
- ・方針検討会/事業計画書のたたき台作成(11ヵ月前)
- ・開業エリア/物件及び診療圏調査
- ・資金調達/内装工事会社の選定
- ・医療機器/什器備品の選定(4ヵ月前)
- ・広告宣伝/パンフレット等の各種印刷物作成(3ヵ月前)
- ・職員募集(2ヵ月前)
- ・保険利用期間指定申請/保健所社保検査(1ヵ月前)
- ・各種税務届出(開業後)
稀にある失敗としては、繁忙期を見誤るケースです。
例えば、春先に開業し冬場のシーズンを逃してしまった場合。
家賃や人件費、借入金返済等の固定費が重くのしかかるため、運転資金の準備は念入りにしておく必要があるでしょう。
需要が発生するタイミングに合わせて開業告知をすれば、近隣住民へのインパクトも大きいと言えます。
また、焦るあまり、社員教育が不十分なまま開業するのはオススメしません。
クリニックは「継続性」が大事ですので、所見で患者からの第一印象を悪化させてしまうと、巻き返すのに時間がかかります。
長期的な視野をもった、開業時期の判断も必要となります。
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