開業医と勤務医との税制上の差異
医療
開業医と勤務医、どちらが有利か
税制上は勤務医の方がお得
-事業と給与の違い-
経営
- 2015.09.30 -
事業所得と給与所得の違い
所得税法上、勤務医の所得は給与所得、開業医の所得は事業所得に該当します。
税率は両者とも同じですが、経費の考え方に差異が発生します。
そのため、一般的には勤務医の方が税制上優遇されています。
経費の考え方の違い
①開業医(事業所得)の場合
事業所得では、その事業に要した経費のみ、必要経費として計上できます。
そして、その経費はキャッシュアウトを伴います。
つまり、お金が出て行かない経費というものは基本的にありません。
ところで、事業所得の経費では、仕事分とプライベート分とが混在するものもあります。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
- ・通勤に使う車両購入費、保険料、自動車税
- ・従業員と行った飲食代
- ・自己研鑽のためのセミナー参加費、旅費
ただし、このような費用も家事分はきっちり分けられ、経費にはできません。
②勤務医(給与所得)の場合
給与所得では、基本的に経費計上ができません。
(かなり多くの出費をした場合は、一定の要件の下計上できるものもあります。)
その代わり、給与所得控除という制度があります。
この制度は勤務医に係らず、全ての会社勤めの人に認められるものです。
これには、以下のような背景があります。
- ・サラリーマンでも給与を得るために何らかの出費はあるはずだ
- ・しかし全サラリーマンに確定申告を要求するのも現実的ではない
- ・そこで、年収に応じ概算経費の計上を認めよう
といった趣旨のものです。
厚生労働省の調査によれば、勤務医の平均年収は約1,500万円です。
(http://www.mhlw.go.jp/)
仮に1,500万円で認められる概算経費(給与所得控除)は、245万円です。
つまり、実際のキャッシュアウト無しでも、経費としての計算が認められています。
これが両者の違いであり、勤務医が税金上有利となる所以です。
なお、
所得税・住民税の税金額はこちらでシミュレーション
することができます。
医師の講師報酬と確定申告
医師の方は、医療関連メーカー等から外部講師を頼まれることもあると思います。
その際、発生する講師報酬は確定申告にて税金の精算が行われます。
このとき、開業医の事業で発生した損失は、当該報酬との相殺が可能です。
(損益通算と呼びます)
他方、勤務医の場合は、通常給与に損失は発生しないため、相殺はできません。
つまり、損失がある場合も、両者の取扱いに違いがあります。
この場合は、他の所得と通算できる開業医が有利となります。
勤務医と開業医のどちらが有利か?
一昔前はマニュアル通りに開業すれば成功すると言われた時代もありました。
しかし、2025年をピークに外来需要が減少することや、新規クリニックの相次ぐ開業により必ずしも安泰とは言えなくなっています。
一般的に、開業医は平均所得:3,000万円と言われますが、実際には額面数字に表れない苦労もあります。
例えば、以下のような要因が挙げられます。
- ・テナント開業でさえ、3,000~5,000万円程度の借入が必要であること
- ※自己資金の量や地域により異なります
- ・所得に応じて税率は高くなること(毎年裕に高級外車が1台買える程の納税が必要となることも)
- ・借入金の元本返済額は経費にできないが、確実にキャッシュアウトを伴うこと
- ・収入の伸びは黒字化して5年程度で頭打ちになることが多いが、競合他社の進出で常に競争にさらされること
- ・何があっても責任は全て自分で取らなければならないこと
開業すれば所得が倍増して安泰だ、とは必ずしも言えないかもしれません。
安定した黒字化とクリニック運営には経営者として常に日々の努力が求められます。
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